借金の問題 A個人再生手続 Q&A
Q1 : 個人再生とは何ですか?
- A :
- 個人再生は,負債総額が5000万円以下(住宅ローンなどは除く)で,将来的に安定した収入が見込まれる場合に,一定額を弁済すれば,残額の免除が受けられる手続きです。
Q2 : 再生手続には,どのような種類がありますか?
- A :
- 再生手続には,小規模個人再生と給与所得者等再生の2種類があります。
給与所得者等再生は,給与又はこれに類する定期的な収入を得る見込みがある者で,その額の変動の幅が小さいと見込まれる者(サラリーマンが典型例)が利用でき,再生計画案について債権者の決議が不要という点で,メリットがあります。
しかし,給与所得者等再生は,可処分所得弁済要件があるため,高収入を得ている債務者の場合には,給与所得者等再生を選択した方が最低弁済額が高額になる場合があり,ほとんど利用されていません。(そのため,以下,個人再生手続という場合には,小規模個人再生のみを指すものとしてご説明します)
Q3 : 個人再生手続は,どのような場合に利用することができますか?
- A :
- 次の3つの要件を満たす場合に利用することができます。
ア 支払不能のおそれがあること
イ 負債総額が5000万円以下の個人債務者であること(5000万円には住宅ローンなどは含みません。)
ウ 継続的に又は反復して収入を得る見込みのある者であること
Q4 : アルバイトやパートタイマーでも個人再生手続を利用できますか?また,自営業者の場合はどうですか?
- A :
- 同一の勤務先で継続して仕事をして収入を得ている場合には,利用できます。ただし,短期のアルバイトを繰り返しているような場合は,継続的に又は反復して収入を得る見込みがないと判断される危険性が高いといえ,利用は難しいと思われます。
自営業者であっても,毎月一定程度の利益を出している場合には,利用が可能と思われます。しかし,赤字が続いているような場合は,利用は難しいと思われます。
Q5 : 個人再生手続を利用した場合,どの程度の額を弁済しなければならないのですか?
- A :
- 個人再生手続では,以下の最低弁済基準額を上回る金額の弁済が必要です。
@ 債務が100万円未満であれば,全額
A 債務が100万円以上500万円以下のときは,100万円
B 債務が500万円を超え1500万円以下のときは,債務額の5分の1
C 債務が1500万円を超え,3000万円以下のときは,300万円
D 債務が3000万円を超え,5000万円以下のときは,債務額の10分の1
Q6 : 3000万円の借金と500万円の住宅ローンを抱えています。マンションの時価は1000万円なのですが,この場合,いくら弁済しなければならないのですか?
- A :
- 個人再生手続においては,「再生計画の決議が再生債権者の一般の利益に反するとき」には,裁判所は再生計画案を決議に付することができません。この「再生債権者の一般の利益に反しない」こととは,再生計画による弁済額が,破産手続による配当額を上回っていることなどと意味します。したがって,債務者が何か財産を有しているとき,再生計画においてその価格を超える弁済が必要になります。これを清算価値保障原則といいます。
Q6では,債務が3000万円ですので,300万円を返済すればよいように思いますが,債務者は,500万円の資産を有していることになりますので,再生計画で500万円以上を弁済しなければなりません。
Q7 : どれくらいの期間で,弁済しなければならないのですか?
- A :
- 返済期間は,原則として3年ですが,特別の事情があるときは5年とすることができます。そして,この期間,3ヶ月に1回以上の割合で,分割弁済を継続する必要があります。
Q8 : 個人再生手続にはどのようなメリット・デメリットがありますか?
- A :
- メリットには次のような点を挙げられます。
@ 返済総額を圧縮することができる。
A 破産手続での免責不許可事由があっても利用が可能である。
B 住宅資金特別条項を利用すれば,住宅ローンを従前通り支払いつつ住宅を残すことができる。
デメリットには次のような点を挙げられます。
@ 返済総額を圧縮するといっても,一定額を返済しなければならない。
A 債権者の半数以上が再生計画案に同意しない旨を書面で回答したり,又はその回答が,議決権者の議決権の総額の2分の1を超えた場合には,裁判所が職権で再生手続きの廃止決定をする。(この場合は,自己破産手続か任意整理手続を選択することになります。)
B 他の債務整理手続きと同様のデメリットですが,ブラックリストに事故情報として掲載され,カードを利用することができなくなる。
Q9 : 住宅資金特別条項とはどのような場合に利用するものですか?
- A :
- 住宅ローンとそれ以外の負債を抱えていて,支払が厳しくなり,このままでは破産をして住宅を手放さなければならなくなる場合に,利用するものです。住宅ローン以外の負債を圧縮して,住宅ローンを支払やすくし,住宅を確保したい場合に利用します。
住宅資金特別条項を利用するためには,以下の要件を満たす必要があります。
ア「住宅」について
@ 再生債務者が「所有」している建物であること
A 再生債務者自身の居住の用に供する建物であって,専ら自己の居住の用に供される部分が床面積の2分の1以上に相当すること
B @,Aの要件を満たす建物が複数あるときは,再生債務者が主として居住の用に供すると認められる一の建物に限られること
イ「住宅資金貸付債権」について
@ 「住宅」の建設若しくは購入に必要な資金,又は「住宅」の改良に必要な資金の貸付によって生じた再生債権であること
A 分割払いの定めがある再生債権であること
B 抵当権が当該再生債権,又は当該再生債権を保障会社が代位弁済した場合の求償権を被担保債権としていること
C 抵当権が「住宅」に設定されていること
Q10 : 住宅に住宅ローン(住宅資金貸付債権)以外の債権を担保する抵当権が設定されていますが,それでも住宅資金特別条項を利用できますか?
- A :
- 守るべき住宅に,住宅ローン以外の債権を担保する抵当権が設定されている場合,住宅資金特別条項を利用することができません。そのため,不動産担保ローンを担保するための抵当権が設定されているような場合は,利用できませんので,注意が必要です。
Q11 : 住宅ローンを既に滞納しているのですが,それでも住宅資金特別条項を利用できますか?
- A :
- どれくらい滞納しているのかにもよりますので,明確な回答は難しいと言わざるを得ません。既に滞納している場合には,銀行との間で良く協議をする必要があります。
なお,住宅ローン債権は,保証会社が銀行に対して保証しており,保証会社が住宅に担保権を設定しています。住宅ローンを滞納した場合,保証会社は銀行に代位弁済を行い,新債権者である保証会社が担保権を実行して代位弁済金の回収にあたります。そこで,この様な場合も住宅資金特別条項を利用できるのか問題がありますが,保証会社が銀行に対して代位弁済した後でも,代位弁済から6ヶ月以内に再生手続の申立てをすれば,住宅資金特別条項による再生を認め,再生計画が認可,確定した場合,代位弁済をなかったものとし,住宅ローン債権を保証会社から銀行に戻すことにしました。これを「巻き戻し」といいます。
Q12 : 養育費を滞納しています。個人再生手続を取ることで,滞納分は一部カットされるのでしょうか?
- A :
- 滞納した養育費は,債権者(親権者)の同意がない限り,再生計画において一部カットされることはありません。このように,個人再生手続においても一部カットされない債権のことを非免責債権といいます。非免責債権には,養育費請求権を含む再生債務者の扶養義務等の請求権の他,再生債務者が悪意で加えた不法行為に基づく損害賠償請求権,再生債務者が故意又は重大な過失により加えた人の生命又は身体を害する不法行為に基づく損害賠償請求権があります。
養育費請求権等の非免責債権は,再生計画において債務の減免はされませんが,いつでも権利行使できるとなると,再生計画の履行に支障を来すおそれがあります。このため,非免責債権は,再生計画に定められた弁済期間中,再生計画に定められた一般的基準に従って弁済すれば足り,弁済期間満了後に残額を支払うことになります。
Q13 : サラリーマンで,これから個人再生の申立てをする予定ですが,債権者から給料の仮差押えをされてしまいました。どうすればよいですか?
- A :
- 個人再生手続開始の申立てを行い,開始決定がなされた段階で仮差押えの取消申立てをすることで,給与の全額を受け取ることができるようになります。したがって,できるだけ早く,裁判所に申立てをすることが重要です。
Q14 : 借金がギャンブル・無駄遣いで増えた場合にも個人再生手続を使えますか?
- A :
- 個人再生手続には,破産手続と異なり,「免責不許可事由」(借金の免除が許されない事情)が定められていませんので,債務の増大の原因は問われずに,使うことができます。
ただし,多少の免責不許可事由があっても,破産の申立をして免責決定をもらうことが可能な場合もありますので,どちらの方法を選択するかについては,弁護士にご相談ください。
Q15 : 個人再生手続をとる場合,生命保険は解約しなければなりませんか?
- A :
- 生命保険を解約する必要はありませんが,解約返戻金は清算価値としてカウントされることになりますので,申立前に保険会社に解約返戻金相当額を確認する必要があります。この額が,高額になる場合には,清算価値保障原則より,債権者への返済総額が最低弁済基準額よりも高くなる危険性がありますので,注意が必要です。
Q16 : 個人再生手続をとったことが,勤務先や知人に知られることはありますか?
- A :
- 自分から話さない限り,知られることはないと言って良いでしょう。また,個人再生手続を取ったからといって,そのことが戸籍謄本や住民票に記載されることはありませんので,ご安心ください。
Q17 : 家族に内緒で個人再生手続をとることはできますか?
- A :
- 個人再生手続では,申立直近の3か月間の家計簿を裁判所に提出する必要があります。これは家計を同じくする同居家族全員分の家計簿ですので,必然的にご家族のご理解・ご協力が必要になってきます。また,同居のご家族の収入資料(給与明細や源泉徴収票等)を裁判所に提出しなければなりません。これらのことから,ご家族にご相談され,ご理解を得た上で,手続を進められた方がよいでしょう。
Q18 : 個人再生手続を取った場合,退職金はどのように扱われますか?
- A :
- 横浜地裁管内では,まだ退職していない場合は,退職金支払見込額の8分の1を清算価値に計上する扱いとなっています。したがって,退職金支払見込額の8分の1が高額になってしまう場合には,最低弁済基準額を上回る弁済をしなければならなくなる可能性があります(清算価値保障原則)。
Q19 : 弁護士に依頼する費用がありません。どうしたらよいですか?
- A :
- まず,無職の方や生活保護を受給されている方で全く財産を有していない方などは,法テラスを利用されることをお勧めします。詳しくは弁護士にご相談ください。
次に,解約返戻金が20万円以上となる保険に加入されているような方は,保険を解約して弁護士費用に充てれば,それだけ自分の懐が痛まずに済むことになります。この点も弁護士にご相談ください。
Q20 : 個人再生手続にはどれくいの時間がかかりますか?
- A :
- 個人再生手続は,以下のような流れを辿ります。弁護士が受任してから各債権者への支払を開始するまでに,6ヶ月から7ヶ月程度はかかります。
ア 各債権者への受任通知発送(これにより各債権者からの取立が止まります。)
↓1ヶ月程度
イ 各債権者から取引履歴が開示される
↓1〜2ヶ月程度
ウ 債権調査・必要書類の準備等(イの取引履歴を利息制限法に基づいて計算し直し,正確な債務額を把握します。)
エ 事務所での打合せ・裁判所への申立(打合せは2〜3時間程度かかります。)
↓この期間は裁判所によって異なります(長くて1〜2週間)。
オ 再生手続開始決定(この決定と同時に,裁判所から積立勧告が出されます。積立勧告とは,再生計画通りに履行することができるのかどうかを裁判所が判断するために,3か月間にわたって,月々の計画弁済予定額の積立を勧告する制度です。申立代理人名義の口座への振込等によって,積み立てます。)
↓3ヶ月程度
カ 再生計画案及び報告書の提出(再生計画案とは,各債権者への返済総額や月々の返済額等を示すものです。)
↓1週間から2週間程度
キ 書面による決議に付する旨の決定(小規模個人再生においては,再生計画案の決議は,常に書面等投票による決議の方法によって行われ,しかも再生計画案に同意しない旨を回答した議決権者が議決権者総数の半数に満たず,かつその議決権の額が議決権の総額の2分の1を超えないときは,再生計画案の可決があったものとみなされるという消極的同意の方法が取られています。)
↓1ヶ月程度
ク 再生計画認可決定
↓2週間程度
ケ 再生計画認可決定の確定
↓1ヶ月程度
コ 各債権者への支払開始(再生計画認可決定確定日の属する月の翌月から支払開始となります。)
↓3年〜5年
サ 各債権者への支払完了